2023年09月12日経営支援コラム
コロナ融資(ゼロゼロ融資)の返済開始で資金繰りが厳しくなった際の、長期返済不要の融資による対応(劣後ローン編)
劣後ローンは長期間元金返済が無い融資です。また、金融機関が中小企業を格付する際に純資産(自己資本)に全額または一部、加算できる特長があります。借入の返済で資金繰りが忙しい経営者や債務超過の会社にとってはメリットが大きい一方、今後の成長性が求められる事から審査への準備が必要です。
コロナ返済への支援策!
元金返済が長期不要の『劣後ローン』は自社で使える?
今回は、コロナ融資の返済開始などで資金繰りが悪化している経営者向けに、元金返済が長期間不要の『劣後ローン(資本性ローン)』について解説します。
劣後ローン(資本性劣後ローン)とは
まず、本来は劣後ローンと資本性ローンは別々の意味ですが、一般的には同じものとして紹介されています。今回は『劣後ローン』と表示しますが、中身は『資本性劣後ローン』の解説です。
中小企業において一般的に劣後ローンといえば『資本性劣後ローン』を指します。
資本性劣後ローンとは資本的な性格を持つ劣後ローンです。簡単に言えば、劣後ローンという借入ではあるものの、(金融機関が融資先を格付する時は)自己資本として見て良い、という意味です。詳しくは後述します。
劣後ローンは資金使途により3種類あります。
①実際に借入金が入金される「真水型」
②今ある借入の返済と同額の融資で借り換えする「借換型」
③今の借入の返済+真水での借入を同時に行う「真水あり借換型」です。
劣後ローンを導入する効果は2つ
劣後ローンの特長は以下の2つです。
①最終返済期限まで元金返済が無い
最終期限まで途中の元金返済が無い、期限一括返済型の融資です。
最終期限には原則、一括返済が必要であるため「返さなくていい融資」ではありません。
②負債ではなく純資産の部として評価される
決算書上は、固定負債に計上します。
ただし、金融機関が融資先の決算書を格付する時に、劣後ローンの残高を借入金から減らして、減らした額を純資産(自己資本)に加算して評価できます。純資産に加算できる額は、最終期限まで残り5年間は毎年20%ずつ減少します。
自社の自己資本比率の上昇と借入金の減少で、格付を良くする効果があります。
上記2つ目の「負債ではなく純資産の部として評価できる」とは、貸借対照表でイメージするとわかりやすくなります。
<劣後ローン利用前後のイメージ図>
上記の借入金から減らして純資産に加算して判断することができるのは、金融機関での格付評価時に限られます。
このため建設業の「経営事項審査」(経審)の点数、産業廃棄物処理業の「優良産廃処理業者の認定制度」における自己資本比率の計算などには適用されません。
劣後ローンを取り扱っている金融機関
劣後ローンを取り扱っている金融機関は多く、地方銀行などの民間金融機関でも取り扱っていますが、あまり宣伝されていません。
取り扱いが多いのは政府系金融機関とみられており、日本政策金融公庫などがあります。
日本政策金融公庫の劣後ローン(『コロナ資本性劣後ローン』)の利用が徐々に増えおり、このうち30%が借換での利用です。
<日本政策金融公庫の劣後ローン利用金額、件数、借換による利用割合>
日本政策金融公庫のコロナ資本性劣後ローン
日本政策金融公庫の劣後ローンは、比較的金額が大きい中小企業事業と小規模事業者向けの国民生活事業とで、それぞれ取り扱いしています。
日本政策金融公庫(国民生活事業)のコロナ資本性劣後ローンの概要は次のとおりです。
融資対象 | ・事業計画書を策定し、コロナ資本性劣後ローン利用後おおむね1年以内に民間金融機関等からの融資または出資が受けられる見込みがある方 ・認定支援機関の支援を受けて事業計画を策定する方 など |
融資限度額 | 7,200万円(別枠) |
融資期間 | 5年1か月、7年、10年、15年、20年のいずれか |
融資利率 | ① 融資期間によって利率の区分が異なります。 ② 当初3年間は利率が一律0.5%となります。 ③ 4年目以降は1年ごとに利率を見直しします。 決算書の当期利益が赤字の場合:翌年の利率は『0円未満』の一律0.5% 黒字の場合:翌年は『0円以上』の区分の利率が適用されます。 |
担保・保証人 | 無担保、無保証(法人の借入について経営者保証が不要) |
引用:
審査は厳しい?劣後ローンの審査に通るコツ
劣後ローンは通常の毎月返済の融資よりも、審査のハードルは相当に上がります。長期間に亘って元金返済が無いためです。
劣後ローンの審査に通るためには、以下のポイントがあります。
■事業計画書
今後の経営改善を計画書(所定の様式)で説明します。最近の実績が赤字の場合は黒字化する可能性が高いことを説明する必要があります。
重要な点は改善策が妥当か、実現可能性があるかです。経営に詳しい外部の専門家のノウハウを活かすことが有効です。
■資金繰り表
当面1年間程度の資金繰り表を作成し、見通しを明示します。
■民間金融機関の協調支援または認定支援機関の支援
劣後ローンと同時または実行後に、銀行などの民間金融機関からの融資を受けることができることが条件です。
また上記以外に、事業計画書の作成に認定支援機関が関与している場合も対象です。
■決算書などに粉飾が無い
決算書や申告書、事業計画書に粉飾または虚偽の記載があると、融資が否決される可能性が高くなります。
また借入後に粉飾が判明した場合も、一括返済だけでなく、多額の違約金が発生することがあります。
■資金使途に注意
単に「赤字で返済できないから劣後ローンを借りたい」「返済がある借入を劣後ローンにすれば返済がいらない」などの理由の場合は否決される可能性が高くなります。
劣後ローンが難しい時の資金繰り対策はこの2つ
劣後ローンは元金返済が長期間不要となるなどメリットが大きい融資ですが、審査も厳しくなります。
劣後ローンの借入が難しい時は他の資金繰り対策を検討します。経営者におすすめの方法は「借換」と「リスケ」の2つです。
①借換
新しい融資で今の借入を返済して乗り換えることです。今の借入の残りの期間よりも長期の融資を借りることで元金返済を減らすことができます。
②リスケジュール(リスケ)
リスケジュールとは、今の借入の返済条件を変更し、元金返済額を減額またはゼロとする変更契約をすることです。
上記2つについて、手続きを円滑に進めるポイントは、金融機関が納得できる事業の改善見通しと資金繰り表の作成です。
経営者は忙しいうえ、事業計画書や資金繰り表の作成に不慣れな方も多くいらっしゃいます。経営者の方は弊社専門家など社外の専門家のサポートが有効です。
まとめ
劣後ローンは、最終期限まで元金返済が無いという大きなメリットがあります。
また今の借入を借り換えることで資金繰りを改善する活用法も可能です。
劣後ローンを利用するためには、妥当な経営改善策、今後の事業の改善見通し、資金繰り予想を明確に示す必要があります。弊社の専門家のように経営者に寄り添い、二人三脚でサポートしてもらえる専門家の活用が経営者の支えとなります。